【相続節税、不動産活用に制約 最高裁が「借金」けん制】

自宅戦略を考えるヒント

相続財産の評価額について争われた4月19日の最高裁判決が波紋を広げています。

これまで一般的だった不動産を使った節税策で、税務当局から追徴課税などの指摘を受ける可能性があると受け止められた為です。

今後の相続税の申告や相続を踏まえた不動産の取得では、どのような点に注意すべきなのでしょうか。

最高裁で争われたのは相続した賃貸マンションの評価額が実勢価格より低すぎるとして、国税当局が再評価し、その結果を基に追徴課税したケースです。

相続人側は評価の手法は通常の方法などとして提訴しましたが、最高裁は税務当局の主張を認める判断をしました。

不動産を使った相続節税の基本は、被相続人が保有する現預金をそのままにせず、不動産の購入に充てることです。

相続税は相続する財産の評価額に応じて発生します。

例えば2億円の現預金を保有する人が亡くなったら、相続時の現預金の評価額は2億円です。

仮に2億円を不動産の購入に充てていたら、評価額を減らすことができます。

理由の一つが相続する土地の価値を評価する際に「路線価」を使うことです。

路線価は国税庁が毎年7月に公表する主要な道路に面した土地の1平方メートルあたりの価格で、公示地価の8割が目安となります。

購入時から時価が変わらなければ、2億円で購入した土地の評価額は単純計算で1億6000万円と、現預金で持っているより4000万円下がります。

その分、相続税も安くなり、購入したものが賃貸用物件なら、所有者が自由に使えない分も減らせるため、さらに節税効果を大きくできます。

今回の裁判で問題となった節税策をみてみましょう。

90代の被相続人は2009年に東京都と神奈川県に2棟の賃貸マンションを計約13億8000万円(土地・建物の合計)で取得しました。

被相続人は12年に亡くなり、相続が発生。このときの路線価を基にした評価は約3億3000万円と購入価格を大きく下回りました。

節税策はこれだけではありません。

被相続人はマンションを購入するにあたり約10億円を信託銀行から借り入れていました。

相続時に借金があった場合は相続財産を計算する際に、現金や土地などの価値から、借金の分を差し引ける「債務控除」と呼ばれるルールがあります。

債務控除の結果、課税対象となる相続財産は基礎控除(非課税枠)以下となり、相続税をゼロと申告しました。

それに対し、税務当局は賃貸マンションの路線価による評価額が購入価格の30%に満たず、購入額と大きく異なることなどを「著しく不適当」と判断しました。

相続財産の算定額が「著しく不適当」な場合に国税当局が再評価できるとする例外規定を根拠に約12億7000万円と再評価し、約3億円を追徴課税しました。

今回の判決が税理士など関係者を驚かせたのは、相続税の申告の中身が「通常の手法だった」(税理士の岡田俊明氏)からです。

土地の価格を路線価で評価することも、債務控除を使うことも手続きとしては当然といえます。

仮に税務当局が例外規定を頻繁に使うことになれば「不動産を使った節税策が非常に使いにくくなってしまう」(税理士の藤曲武美氏)。

それでは今後、納税者側はどのように対処すべきなのでしょうか。

元仙台国税局長の川田剛税理士は、今回の最高裁判決は相続時の不動産評価の「著しく不適当」な場合について、「明確ではないが、一定の枠組みを示した」点に注目しています。

判決では時価が路線価を上回るだけでは著しく不適当ではないとしました。

そのうえで「借り入れにより大幅な評価減が可能な賃貸不動産などを節税を期待して購入する」という対策自体が著しく不適当だとしました。

ここから読み取れるのが、まず、不動産を取得するための借り入れが問題視されたということです。

多額の借り入れがあれば債務控除を使い「取得した不動産以外の財産とも相殺でき、課税対象額を大きく減らせる場合がある」(辻・本郷税理士法人の浅野恵理税理士)。

最高裁は不動産の評価減と並んで借り入れが課税対象額を大きく減らし、「実質的な租税負担の公平に反する」としました。

「不動産の取得が相続節税の目的に限られると判断されるのも避けた方が無難」(阿保秋声税理士)との見方もあります。

今回の裁判では被相続人は約10億円を90代で借り入れてしていました。

融資した信託銀行は貸し出し稟議(りんぎ)書に「相続対策のため借り入れの依頼があった」と記載。さらに節税に使った賃貸マンションのうち1棟を相続開始後1年未満に売却していました。

年齢や書面の記載、売却時期ともに「条件」はそろっていました。

既に相続税の申告をした人の中には、今回の事例と同様の手法を使った人もいるかもしれません。

相続税の申告では、当局の指摘は申告から1~2年以内にされることが多いとされています。

今回の判決を受けて「同様のケースについて積極的に調査をする可能性はある」(阿保税理士)。仮に税務当局から指摘があった場合は、修正申告が必要になることもありそうです。

一方で今回の事例については「税金をゼロと申告するなど極端なケースといえる」(大手銀行)との声もあります。

実際には借り入れに依存した高額の不動産購入は、一部の富裕層にしかできません。

税務当局が不適当とする基準が明確でないことは不安材料ですが、最高裁は通常の節税手法そのものは認めています。「常識的な」範囲の節税策については過度に心配する必要はないともいえそうです。

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